だいぶ前から年末年始の山行は南アルプスと決めていたのですが、この時期の有名な山には立派なトレースがついてしまうため、先日買ったばかりのスノーシューの出番がありません。豪雪地帯は単独では無理ですし、ほどほどに雪が深くて人の行かない山として思い付いたのが、3週前に三本槍岳から眺めた美しい裏那須の連嶺でした。
山頂までトレースのついた山を登るよりも、自分でラッセルしルートを判断しながら進めば、はるかに雪山登山の醍醐味を味わうことができます。予想した通り、今回は山中では誰にも出会わず、トレースも一切ありませんでした。計画は会津側の野際新田から入山し、大峠、流石山、三倉山を経て、上ノ坪に降りる幕営2泊の予定でしたが、天候悪化のため途中で引き返してきました。
山歩き再開後、5度目の途中撤退となりましたが、うち3回は年末年始の山行です。私は筋金入りの登山者ではないので、天気の悪い時は山には登らず、天気が悪くなったらさっさと山を降りて温泉に浸かります。
観音沼の無料駐車場(トイレ付き)を6時45分出発、村の人から「大峠行くの?かんじきもってる?」と声をかけられる。私のスノーシューを見て、「これなら大丈夫、気をつけて」と見送られた。
野際新田の最後の民家を過ぎると、林道は一変し雪が深くなった。トレースは無く、村人の言う通りつぼ足ではたいへんなので、さっそく新品のスノーシューを装着した。
駐車場から一時間ほど歩くと開けた川原に出た。私の目指す三倉山、大倉山、流石山の稜線が白銀に輝いている。上高地から見上げる穂高連峰を少し小さくしたような見ごたえのある景観だ。
林道は雪の量が一定でなく、膝まで潜るかと思えば地肌が露出しているところもあった。途中何度か水深数cmの水流を渡る場面があったが、濡れたスノーシューを雪の中に突っ込むと、スノーシューのプラスティックの表面が凍結し、それに雪が付着し雪団子になって足が重くなる。その都度ストックでスノーシューをガンガンたたき、氷をはがし落としたが、容易には落ちてくれなかった。
林道終点間近で流石山を望む。
この少し先から登山道となるが、しばらくは林道の延長のような感じで切り開きをほぼ水平にすすむ。ある地点で向きを南に変え大峠への登り坂になるが、ここのポイントが目印も無くわからなかった。赤テープもほとんど無いので大峠方面に向かって適当に登った。雪に覆われたヤブの上を歩くと中が空洞になっているため踏み抜いてしまい、何度か腰まで埋もれてしまった。
12時50分大峠着。無雪期のコースタイム3時間のところ、6時間以上(休憩込み)かかってしまった。ピッケル、アイゼン、たっぷりの食料と燃料など冬山完全装備は重く、さらにスノーシューを履き単独でのラッセルとなると、思うようには捗らない。雪が少なく調子よく進めれば、テント設営後に三本槍岳まで往復しようと目論んでいたのだが、最後の昼食を摂ってからテントを張り終えると、すでに午後2時である。疲労感は無かったが、三本槍岳まで往復するには時間が足りなかった。
たしか三斗小屋は年末年始は営業しているので、ここまでくれば人の足跡があると思っていたが、どこにもトレースは無かった。
大峠は想像していたよりずっと展望がよく、のんびりと景色を楽しむことができた。ただ東西に伸びる尾根上の峠なので、ご来光や日没が見られないのが残念だ。
夜半、テントが激しくはためき、雪の叩きつける音で目がさめた。寝袋の中で、山行を続行できるか不安を覚える。
夜が明けると激しい吹雪。未知の雪稜を単独で進むのは無理と判断せざるを得なかった。ラジオを聞くと強い冬型の気圧配置でマイナス40度の寒気団が南下中、明日も二つの低気圧が通過するという、うれしくない予報だった。もう一泊予定していたので停滞も考えたが、明日も天気が悪そうだし、一人での停滞は退屈極まりないので、今日中の下山を決めた。
せめて名の付いたピークをひとつくらい踏みたいと思い、またスノーシューで急斜面歩行を試したいという思いから、地図と磁石それにGPSだけ携えて流石山を目指すことにした。
(左)幕営地より流石山方面。
登るにつれ風雪は激しくなり、標高2000mに満たない山岳とは思えないくらい厳しい。ブリザードで見通しは一段と悪くなり、ゴーグルは曇りそれが凍結してますます視界が悪くなった。自分のつけたトレースも風と雪でどんどんかき消されてしまう。急斜面を登り終えたところで「これ以上は無理、帰ろう」と決めた。高度計付き腕時計は標高1730mを示していた。
風雪下でのテント撤収は、しんどい作業だ。一人で行うとなるといっそう憂鬱な気分になる。頭の中は温泉に入ることでいっぱいになった。
往路を下り始めたが、昨日残した自分のトレースは消えていた。登るとき方向を変えた地点も視認できなかったが、昨日GPSでマークしていたため(下の表)、難なく東へ向かう切り開きに戻ることができた。このような状況下で初めてこちらに下る人は、そのまま北に向かって降りていってしまうだろう。要注意個所である。
| 測地系 | 北緯 | 東経 | 標高 |
| 東京 | 37度09分07.5秒 | 139度56分43.0秒 | 1393m |
| WGS84 | 36度09分18.5秒 | 139度56分31.0秒 | 〃 |
(左)林道途中にある無人雨量観測所。
このルートは積雪期に歩く人がいないのか、赤テープが適切につけられていないように思えた。必要なところに無く、どうでもいいところ(林道のカーブミラーなど)にはつけられている。
帰途のドライブは、会津側は真っ白のスノードライブだったが、塩原に入ったとたん道路から雪が消えた。西那須野塩原インター近くにある大鷹の湯(¥600、要タオル)に立ち寄った。ややぬるめの温泉だが、じっくりと体の芯まで温めることができた。