日本登山界の高齢化は著しく、私自身もそれに加担しており、せめてもの罪滅ぼしに娘を連れて山を歩いております。というのは冗談ですが、山で出会う若い人たち、とりわけ若い女性の姿は新鮮に映ります。中三の娘を女性と呼ぶには若すぎますが、山ですれ違う人の視線がいつも娘の方に向けられているのを感じます。今回、蓼科山で同世代の人から「娘さんと一緒ですか? いいなー、うちなんかいくら山へ誘っても相手にしてくれないんですよ」と羨ましがられてしまいました。
今の日本ではその人の方が普通なのでしょう。なにしろ登山は、苦しい、汚い、きつい、の3K、夏ともなれば汗くさいが加わる4Kスポーツ。若い女性に人気が無いのも仕方ありません。こんな親父の趣味に付き合ってくれる娘にはただ感謝の一言!
横浜の自宅を前夜10時40分出発、午前3時過ぎに大河原峠に到着し、車中で仮眠する。
目覚めると雲海の上だった。
ここから軽装で、蓼科山に向かった。
比較的緩やかな樹林帯の道を1時間余り登ると蓼科山荘に到着。そこから蓼科山山頂までは、大きな岩が累積した急坂となった。8月最初の土曜日ということもあり、たくさんのハイカーが訪れていた。
蓼科山の山頂は学校の集団登山で占拠され、いつまでたっても場所が空かないので、山頂での記念写真はあきらめた。
左の写真は山頂の北東の一角で撮影。
再び大河原峠の駐車場に戻り、幕営具一式を詰めたザックを背負って双子池に向かった。
双子池のキャンプ指定地
増水時の跡があったので、それより数mほど離して幕を張った。私たちが到着した時は他にテントはなく、小鳥達のさえずりだけが湖面に響いていた。しばらくしてから10人ほどの中高年グループが訪れ、近くにテントを設営し、がやがやと賑やかになった。「なんだかヤダネ」と私と娘。
いやな予感は的中し、グループの談笑に安眠を妨害されることになった。一人一人はいい人達なのだろうが、5〜6人も群れると必ず騒々しくなる。騒いでいるわけではないのだが、日没後は声を落として話をしてほしいものである。一般にグループ登山者は繊細な感性に欠けてしまうようで、静寂境を味わうよりは、酒を味わう方が好きなようだ。
6時半頃まで小雨が降っていて今日はどうしようかと思案していたところ、7時前に晴れ上がり慌てて出発の準備を整えた。
今日の予定は亀甲池経由で北横岳に登り、雨池まで行くつもりである。しかし娘は横岳よりも白駒池に行きたいと言う。どうやらこの暑い中、汗を流して山に登りたくないようである。林道歩きは気が進まなかったが、ここは娘の意見を尊重して、まずは白駒池を目指して歩き始めた。
林道は日当たりが良く、娘は日焼け止めを忘れてきたことを後悔している。私も腕や首周りが少しヒリヒリしてきた。
白駒池は駐車場から僅かの距離にあり観光客がたくさんいることや、池にはボートが浮かべてあることなど話すと、娘は「エーなにそれ、サイアクー」などと言っている。結局白駒池はやめにして雨池を訪れた後、横岳経由にコースを変更することになった。当初の予定の逆まわりとなった訳だ。
雨池
雨池を右回りで半周し、東側のほとりで静かな時間を過ごした。
雨池峠
これから先、ピラタスロープウエイ駅に近づくにつれ、加速度的に人口密度が高くなってきた。
ピラタスロープウエイ駅周辺は、観光客でごった返していて山上の雰囲気はまったく無い。坪庭もハイヒールやサンダル履きの観光客の行列で、超スローペースでその後をついて行った。
北横岳への登山道もツアー登山の行列だった。おそらくバス一台分の乗客と思われる50人程の団体が、私達の前にも後にも連らなっている。下山してくる人から見れば私達もその団体の一員と思われそうで、いまいましい。こんな団体どうしが狭い登山道をすれ違うのだから山を登っている気がしない。
横岳山頂は予想通りの賑わいで、長居は無用、証拠写真を撮影してすぐに山頂を後にした。降り始めてすぐ、森林限界付近の静かな場所で最後の昼食を摂った。
亀甲池へ至る道は、うって変わった静かな山道である。途中、娘が苔むした岩で足を滑らせ転倒。相当痛かったのか大粒の涙が溢れ出した。
亀甲池間近で、雷鳴とともに雨がひとしきり降った。本降りになると思い雨具を着用したが、幸いすぐに止んだ。

誰もいない亀甲池で最後の休憩。
双子池に戻ると、林間のサイトに2張り、池畔のサイトは私達のテントだけであった。今夜は静かな山の夜を過ごせると思ったが、日暮れとともに激しい雷雨となった。
寝袋に入ってから、蝋燭の灯で天幕に手の陰を投影し、影絵遊びした。私の作る影がおかしいと言って、娘はよく笑った。子供はどんどん成長し、こんな子供らしい遊びができるのも最後かもしれないと思うと、こうした時間がこの上もなく貴重に感じられた。
雷雨は激しさを極めていった。目を閉じていても閃光のたび、瞼の裏が真っ白になる。午後9時頃間近に落雷、閃光から轟音まで0.5秒くらいだったので200m足らずの距離だろう。音というより大地が振動し、衝撃を背中で感じた。私はすっかり眠気を失い、残り僅かになったウイスキーを舐めながら雷雨の様子をうかがった。娘は寝入っている。たいした度胸(鈍感)だ。
今日歩いた道に何本もの倒木があったが、落雷によるものなのだろうか。
光溢れる輝かしい朝を迎えた。
昨晩の雨で池が増水し、水際がテントまで1.5m程まで迫っていたのには驚いた。大雨が予想される時は林間に設営すべきと思い、林間サイトを覗いてみたら、多くは水たまりや沢状になっていた。こちらに幕営したら悲惨なことになっただろう。
今日は大河原峠へ戻るだけなので時間はたっぷりある。池畔には私達二人だけである。こうしたひと時は実にいいものだ。
双子池にはカメラを置く台が設置されていて、私達もそれを利用しセルフタイマーで撮影。
二晩過ごした双子池を後にした。
草原と高山植物の双子山山頂にて。
さわやかなそよ風と朝の光包まれて、一昨日登った蓼科山、昨日登った北横岳を一望した。そして眼下には、双子池が豊かな思い出をたたえていた。
娘はここを、「ハイジの舞台みたい」と言って、テーマソングを歌い始めた。私もそれにつられて、年甲斐も無く口ずさむ。
帰りにゆ〜とろん水神の湯に立ち寄り汗を流した。思ったより小さな施設だったが、入った時刻が早かったせいもあり中はがらがら、露天風呂がいくつもあって快適な湯だった。女湯は娘一人だけで怖くなって、早々と出てしまったと話した。